この記事は、企業のマーケティング担当者に向けて「CX(顧客体験)が重要視されている理由」や「CX(顧客体験)を向上させるポイント」などについて徹底解説しています。事業を成長させるためには顧客体験・ロイヤリティの向上が必須となっているので、ぜひこの記事を参考に、CX(顧客体験)向上に取り組んでいきましょう。
CX(顧客体験)とは?

CX(顧客体験)=Customer Experience(カスタマーエクスペリエンス)とは、商品・サービスの物理的価値(価格・機能)だけでなく、購入するまでの過程や商品・サービスを通して得られる感情や経験の価値も含めた一連の概念のことです。
例えば、商品を購入する際の以下の流れすべてがCX(顧客体験)となります。
- 好きなYouTuberが商品を紹介していて認知する
- GoogleやSNSで商品の口コミ、評判、価格を調査する
- 商品を販売している公式サイトに訪れる
- 申し込みフォームを入力し、商品を購入する
- 商品を使用してみる
- 商品に関する疑問点を問い合わせる
- 商品が気に入ったので友人に紹介する
顧客体験とよく似た言葉に「顧客満足度」があげられます。顧客体験が購入前~購入後のすべての体験のことを指すのに対し、「顧客満足度」は購入後の満足度を指しますので、間違えのないよう正しく認識しておきましょう。
顧客体験の分類
顧客体験は、以下の5つの経験価値に分類されます。
- Sense(感覚的価値)
- Feel(情緒的価値)
- Think(創造的・知的価値)
- Act(行動・ライフスタイルに関わる価値)
- Relate(準拠集団への帰属価値・社会的経験価値)
それぞれ解説していきます。
Sense(感覚的価値)
視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚の五感によって得る価値のことです。例えば「心安らぐ音楽」「美味しい料理」「手触りの良さ」などが該当します。
Feel(情緒的価値)
丁寧な接待対応など、顧客の感情に働きかけたサービスにより生まれる価値のことです。例えば、サービスの利用方法が分からないときに、適切なタイミング・適切な回答が返ってきたときなどの感動が該当します。
Think(創造的・知的価値)
顧客の知的好奇心や創造性などに働きかける経験価値のことです。例えば、新しい商品を販売する際、「最新」「業界初」といった宣伝をすることで、顧客は「これまでにない特別なものを利用できる」という感覚をもち、知的好奇心が刺激されワクワクしながら商品を購入することなどが該当します。
Act(行動・ライフスタイルに関わる価値)
顧客の身体的な変化や実際のライフスタイルに関わる価値のことです。例えば、美容液を使用して効果がひと目で分かると、より価値を実感しやすくなります。
Relate(準拠集団への帰属価値・社会的経験価値)
特定の集団に属することで得られる経験価値のことです。例えば、ファンクラブや限定イベントへの参加など、帰属することで特別感を得られる体験などが該当します。
CX(顧客体験)が重要とされている理由

CX(顧客体験)が重要とされている理由は、主に以下の3つです。
- 競合他社との差別化
- サブスクリプションビジネスの普及
- 「コト消費」や「トキ消費」へのシフト
それぞれ解説していきます。
競合他社との差別化
近年、競合他社との商品・サービスの差別化が非常に難しくなっています。その理由は、どの市場もさまざまな商品・サービスで溢れ、成熟しているためです。また、今はインターネットを利用するユーザーが増え、多数の選択肢のなかで比較検討することが当たり前になっています。
こうしたなかで、消費者に自社の商品・サービスを購入してもらうためには、CX(顧客体験)を高め、ロイヤルティ向上を目指すことが必須となっています。
サブスクリプションビジネスの普及
「モノ消費」から「コト消費」への変化の背景に、サブスクリプションビジネスの普及があります。
動画・音楽配信だけでなく、今では自動車やソフトウェア・電子書籍・雑誌など、さまざまな業種がサブスクリプションビジネスに変わっていっています。そのため、CX(顧客体験)に不満があると、途中で解約されることになるため、企業はますますCX(顧客体験)に力を入れる必要が出てきました。
「コト消費」や「トキ消費」へのシフト
商品やサービスの機能そのものよりも、それを利用したことによって得られる「体験」に重きを置く「コト消費」が浸透しました。また、近年は特定の場所、時間でしか味わうことのできない体験である「トキ消費」を求める傾向になってきています。
消費者が「モノ消費」から「コト消費」や「トキ消費」などの「体験」を重視するようになったことから、CX(顧客体験)が重視されるようになりました。
CX(顧客体験)を向上させるための4つのポイント

CX(顧客体験)を向上させるポイントは、以下の4つです。
- NPSを活用する
- PDCAサイクルを回す
- 全社一丸となって取り組む
- ツールを活用する
それぞれ詳しく解説していきます。
NPSを活用する
NPSとは「Net Promoter Score」の略で、顧客ロイヤルティを測る指標のことです。CX(顧客体験)を向上させる際に、よく利用される手法といえます。
NPSを調査するメリットは、顧客の回答が数値で示されるので、測定が簡単であることがあげられます。調査結果も非常にシンプルなため、誰がみても理解しやすい点も大きなメリットといえます。CX(顧客体験)を向上させるには必須の施策といえるので、積極的に活用しましょう。
PDCAサイクルを回す
NPSによって浮彫りになった課題に対して、さまざまな施策を行っていきましょう。分析して満足してしまうケースも多いため、PDCAを回し続けることを意識しましょう。
全社一丸となって取り組む
CX(顧客体験)を向上させるには、全社的な取り組みが必須となります。マーケティング部や営業部だけでCX(顧客体験)を向上させるのは困難であるため、会社の経営層がCX(顧客体験)の重要性を認識し、社員全員のベクトルを合わせることが大切です。
ツールを活用する
CX(顧客体験)の質を向上させるために役立つツールはたくさんあります。自社のビジネスモデルに合ったツールを活用しましょう。
ここでは、それぞれのツールの特徴と活用方法について解説します。
MA(マーケティングオートメーション)
MAとは、マーケティング作業や実行フローを自動で行ってくれるツールのことです。
それぞれの顧客にあわせて適切なタイミングで情報発信でき、購入を促進できます。また、顧客が興味を持ってくれそうな情報をピックアップして提供するので、内容を確認してもらいやすいといえます。顧客が商品・サービスを求めているタイミングで情報提供できるので、CX(顧客体験)向上に役立つでしょう。
Web解析ツール
Web解析ツールとは、Webサイトのデータを分析するツールで、アクセス解析ツールとも呼ばれています。
ユーザーの流入経路・性別・年齢・地域・ページ閲覧数・ページ内の行動など、細かな分析が可能です。Web解析ツールを使うことで、Webサイトの課題・改善点が明確になり、施策後の効果検証もできるので、CX(顧客体験)向上にはかかせないツールといえるでしょう。
CRMツール
CRMツールとは、顧客の管理を行うツールです。
顧客の個人情報・購入履歴・問い合わせ履歴・アンケート結果などの一元管理が可能で、CRMツールを使うことで異なる部署間でも顧客情報の共有が容易になる点もメリットのひとつといえます。それぞれの顧客に合わせた施策が可能となるので、CX(顧客体験)向上に役立ちます。
CX(顧客体験)向上に成功した事例

CX(顧客体験)向上に成功した事例を7つご紹介します。
- スターバックス
- 東京ヤクルトスワローズ
- ソニー損保
- スシロー
- 無印良品
- ユニクロ(UNIQLO)
- ガリバー
他社の事例を参考に、自社でもできそうなところは積極的に取り入れていきましょう。
スターバックス
世界的なコーヒーチェーンであるスターバックスでは、顧客に特別な体験を提供することを大切にしています。
例えば、コーヒーだけでなく、季節限定商品やフラペチーノなどの幅広い商品展開に加え、店内には素敵なBGMとおしゃれなインテリアによる演出、リラックスできるフカフカのソファーなど、「コーヒーを買う」だけでは味わえない、上質な体験をもたらしてくれます。また、スターバックスで過ごすこと自体が「おしゃれ」「かっこいい」というステータスとなっていることも、スターバック独自のCX(顧客体験)となっています。
東京ヤクルトスワローズ
プロ野球球団の「東京ヤクルトスワローズ」は、ファンクラブの会員数増加を目標に立て、NPSを活用して顧客の声を収集しました。
調査によって明確になったのは、入会時にもらえる特典やグッズや、選手と触れあえる機会が重要なこと、本拠地から遠い会員は会員の体験価値が低いことが明確になりました。NPSの調査をもとに、選手と一緒に写真が撮れるイベントや地方限定グッズ・ユニフォームの販売などのさまざまな施策を行うことで、顧客ロイヤルティが向上し、ファンクラブ会員数を大幅に増やすことに成功しました。
ソニー損保
ソニー損保では「お客様の声」「コエキク改善レポート」と称して、顧客の声を集めてサービス向上に活用しています。
自社に集められた良い口コミだけでなく、悪い口コミもホームページ上で公開し、具体的にどのように考え、どう改善したかも公開しています。これらの顧客に対する真摯な姿勢が信頼関係の構築に繋がり、結果的にダイレクト自動車保険で19年連続売り上げ1位という記録に繋がっています。
スシロー
スシローは、コロナ禍でも寿司業界の首位を走っていました。その要因は、オンライン・オフラインを含めたCX(顧客体験)の向上に努めていた結果であるといえます。
店内での飲食が一般的であった回転寿司を、家庭でも楽しめる「お持ち帰り スシロー」という新しい体験を創出し、メディアを活用してテイクアウトができるという印象を与えました。また、操作性の高いスマホに最適化したサイトへのリニューアルやアプリの提供などを行い、Uber Eatsや出前館でのデリバリーと連携することで、スシローアプリを持っていなくてもテイクアウトを利用できる環境作りを行ったのです。
こうしたオンラインにおける体験を充実させたコミュニケーション設計により、CX(顧客体験)を向上させ、現在でも売り上げを伸ばしています。
無印良品
生活雑貨や家具で有名な「無印良品」は、商品を検討する段階から購入するまでの一連の流れについて「考え抜くこと」を重視しています。
例えば、顧客からの要望を参考にして商品を開発し、モニターに使用してもらって意見を収集する取り組みを行っています。また、ネットショップには顧客が意見を自由に伝えられるサービスが導入されており、ここに集まった意見をもとに週1回のミーティングを行っています。
顧客の声に真摯に耳を傾け、CX(顧客体験)を向上させ続けている点が、多くの顧客に支持されている要素であるといえるでしょう。
ユニクロ(UNIQLO)
日本のみならず、世界展開している「ユニクロ(UNIQLO)」では、ユニクロのアプリ内でAIチャットボットが接客をしてくれる「UNIQLO IQ」というサービスを提供しています。
チャットボットを質問の回答に利用している企業は多いですが、UNIQLO IQでは、おすすめのコーディネート提案から、店舗の在庫状況の確認や購入などのショッピング機能などもチャットで行うことができ、店舗での接客に近しい体験を顧客に提供しています。
また、以前までは専門店でのみ対応していたスーツのオーダーを、ユーザー自身の採寸や店舗での採寸データをもとに、オーダーメイド感覚でスーツやワイシャツを購入できるようになったことも顧客が離れない理由のひとつといえるでしょう。
ガリバー
株式会社IDOMが運営する中古車買い取り・販売の大手「ガリバー」では「デジタル空間でもリアル店舗と変わらない接客をする」という目標を掲げています。
ユーザーに合わせた接客を強化すべく「KARTE」を導入し、セグメントに合わせたバナーの出し分けから着手していきました。問い合わせ内容による振り分けはチャットボットが行い、コミュニケーションはスタッフがオープンチャットで対応し、チャットの文言も顧客のニーズに合わせて変更しています。
これらのきめ細かい対応を徹底し、オンライン上のCX(顧客体験)を向上させ、コンバージョン率・利益アップに成功しています。
まとめ

この記事では、CX(顧客体験)向上について、詳しく解説してきました。
CX(顧客体験)は、この記事で解説したことを参考に継続的に改善活動を行っていれば、必ず向上させることができます。一部の人や一部の部署だけがCX(顧客体験)向上に取り組んでも思ったような効果が出ないケースが多いため、全社一丸となってCX(顧客体験)向上に取り組んでいきましょう。